喫煙所で
私は煙草を嗜まない。が、喫煙所の独特の空気が好きだ。
食卓の代わりに灰皿を囲んで、モクモクと煙をくゆらせ、煙の上で言葉を交わす。
良いですねぇこういうの、と私がぽつりこぼすと、決まって彼らはこう言う。
「いや、くろねさん煙草吸わないじゃないですか」
吸わなければ嗜めない世界もあるらしい。
政治思想史ゼミの帰りに、仲の良い面子で灰皿を囲んだ。
就活の話だとか恋愛の話だとか、ほろほろ煙に乗せて話した。
そしてフラッシュバック。
散らばったそれの匂いは先ほどの食事の匂いそのもので。
焚かれた光源が収まって、
もういちど煙に乗せますか、と尋ねたら、
彼女は言った、煙草を切らした、と。
ははは、よくあることだと笑った。
笑ってしまって良いのか、少し迷ったけれども、
それしか出来ないなあ、と、やけくそのように、みんなで笑って、帰った。